商業登記規則の省令改正問題

2024年02月26日

東京商工リサーチの記事で、「商業登記規則の省令改正問題」が報じられていました。今回の改正により、登記簿に代表取締役の住所が記載されなくなる点です。この改正は、DVやストーカー被害からの保護を目的のみとしとしていましたが、今回の改正で代表取締役の住所表示を一定の要件でしなくすることができます。いったい何が問題なのでしょうか。解説していきます。

目次

1.改正の背景

2.改正の問題点

3.まとめ


1.改正の背景

 2022年9月に施行された商業登記規則の改正点の一つに、「会社代表者等の住所の非表示措置」がありました。

 「DV等の被害にあっている会社代表者にとっては、会社の登記簿を見られると自宅住所が判明してしまうため、不利益が大きいものでした。そこで、2022年9月施行の商業登記規則で、DVやストーカーの被害にあっている、または被害にあう恐れがある会社代表者については、その旨を申出ることで会社の登記において自宅の住所を公開せずともよくなりました。申出の際は、登記情報により住所が明らかとなることで被害を受ける恐れがあることを証する書面が必要です。各自治体が発行するDV等支援措置決定通知書や警察が発行するストーカー規制法に基づく警告書等がこの書面に当たります。」とされていたところ、令和6年6月3日施行の予定ですが、「一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役及び代表清算人の住所を登記事項証明書及び登記事項要約書において一部表示しないこととする措置を講ずることができることとする改正を行う。」とされています。

 注意したい点は、すべて非表示となるわけではなく、「一定の要件」で非表示にできるという点です。

2.改正の問題点

 (東京商工リサーチ記事引用)

 「商業登記簿に代表者の住所が記載されなくなるかもしれない。商業登記規則の省改正令は、6月3日施行の予定で、すでにパブリックコメント受付も終了している。果たして、予定通り実施されるのか。

 東京商工リサーチは2月1日から8日、企業向けアンケートを実施した。金融・保険業では、住所の非公開は「与信管理がしにくくなる」との回答が5割超(51.2%)あった。倒産が増勢を強め、リスクマネジメント強化が課題に浮上するなか、代表者の住所非公開は取引先の与信引き下げなど商取引にも影響が出そうだ。

 商業登記簿で確認できる代表住所に関し、プライバシー保護は論をまたない。これまでも住所を本社や社宅などに登録し公表を避ける経営者もあり、起業をためらう人もいる。だが、住所を行政区画(市区町村)までの表示とするデメリットは大きい。与信面で問題のある人物と、代表者が同一人物か調べる時、氏名と住所、可能ならば生年月日で確認する。氏名だけでは同姓同名も多く、住所が非公開になると確認は非常に難しい。逆に、別人が推定される事態も懸念される。

 アンケート調査は、インターネットで企業を対象に実施し、4,555社から回答を得た。非公開となった場合の影響について、与信管理が「大変しにくくなる」が4.7%、「少ししにくくなる」は18.0%だった。全体では「与信管理がしにくくなる」は合計22.8%だったが、与信管理を徹底する金融・保険業は51.2%と半数を超え、業種によって影響の度合いは濃淡が大きい。

 得意先の代表者住所が非公開になると、「営業担当者による動向把握」や「信用調査の回数を増やす」などの与信強化の回答が多く、コストアップは避けられない。また、所有する自宅不動産が無担保でも、非公開で確認できない場合、与信額引き下げなどのマイナス面も強まる。与信低下を避けるため、非公開の申請を躊躇する代表者も出てきそうだ。」(記事引用終わり)

3.まとめ

 実務において、「どうしても住所を登記しないといけないの?」という質問を時々受けることがあります。当時、DV、ストーカー被害が要件となっていたため、これ以外の場合では登記せざる得ない旨を説明していました。

 今回の改正で「一定の要件」が気になるところですが、改正案である商業登記規則第30条の2「登記官は、前項の申出があつた場合において、当該申出が適当と認めるときは、代表取締役等住所非表示措置を講ずるものとする。」とあります。

 運用が始まれば、具体的な事案も出てくると思います。

 一方で、金融機関や保険会社などの与信の判断がしづらくなるという50%超の結果から、対象である非公開会社が与信判断のために、問題を抱えたまま表記してしまうのではないかということが、今回ご紹介した記事には書かれていました。これも運用が始まってみないとわからないというのが、正解だと思います。

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